胼胝《たこ》ができてしまったわ。あなたが悪いのよ。」マリユスは言った。「おお天使よ!」
 天使[#「天使」に傍点]という言葉こそ、使い古すことのできない唯一のものである。他の言葉はみな、恋人らの無茶な使用にはたえ得ない。
 それから、あたりに人がいるので、ふたりは口をつぐんでもう一言も言わず、ただやさしく手を握り合ってるばかりだった。
 ジルノルマン氏は室《へや》の中にいる人々の方へ向いて声高に言った。
「みんな声を高くして話すんだ。楽屋の方で音を立てるんだ。さあ、子供ふたりで勝手にしゃべくるように、少し騒ぐがいい。」
 そして彼はマリユスとコゼットに近寄って、ごく低く言った。
「うちとけて親しむがいい。遠慮するにはおよばない。」
 ジルノルマン伯母《おば》は、古ぼけた家庭にかく突然光がさし込んできたのを惘然《ぼうぜん》としてながめていた。惘然さのうちには何らの悪意もなかった。それは二羽の山鳩《やまばと》に対する梟《ふくろう》の憤った妬《ねた》ましい目つきでは少しもなかった。五十七歳の罪のない老女の唖然《あぜん》たる目つきであり、愛の勝利をながめてる空《むな》しい生命だった。
「どうだ
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