《いす》を持ってこさした。圧定布や繃帯を作るためには家にある最上の布を使うように娘に言いつけた。けれどもジルノルマン嬢は、年取った悧巧《りこう》な女だったので、老人の命に従うように見せかけながら、最上の布は皆しまっておいた。綿撒糸《めんざんし》を作るにはバチスト織りの布よりも粗悪な布の方がよく、新しい布よりも擦《す》り切れた布の方がよいということを、ジルノルマン氏はどうしても承認しなかった。手当ての時には、ジルノルマン嬢は謹《つつし》んで席をはずしたが、ジルノルマン氏はいつもそこについていた。鋏《はさみ》で死肉を切り取る時、彼はいつも自ら「いた、いたい!」とうめいていた。震えを帯びてる老衰した姿で病人に煎薬《せんやく》の茶碗《ちゃわん》を差し出してる所は、見るも痛ましいほどだった。彼はやたらにいろんなことを医者に尋ねた。そしていつも同じ質問を繰り返してることには自ら気づかなかった。
マリユスがもう危険状態を脱したと医者から告げられた日、老人は常識を失った。彼は門番に慰労としてルイ金貨を三つ与えた。その晩自分の室《へや》に退くと、親指と人差し指とでカスタネットの調子を取って、ガヴォット
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