には緩慢|沈鬱《ちんうつ》の気が漂って、心痛の様《さま》が現われていた。
 彼は静かな街路を選んではいっていった。
 それでも彼は一定の方向に進んでいた。
 彼はセーヌ川に達する最も近い道をたどり、オルム川岸にいで、その川岸通りに沿い、グレーヴを通り越し、そしてシャートレー広場の衛舎からわずか離れた所、ノートル・ダーム橋の角《かど》に立ち止まった。セーヌ川はそこで、一方ノートル・ダーム橋とポン・トー・シャンジュの橋とにはさまれ、他方メジスリー川岸とフルール川岸とにはさまれて、まんなかに急流を通しながら四角な湖水みたようになっていた。
 セーヌ川のその辺は水夫たちが恐れてる場所である。今日はなくなっているが当時は橋の水車の杭《くい》があって、そのために急流が狭められ激せられてはなはだ危険だった。二つの橋が近いので危険はなお大となっている。橋弧の下は激しく水が奔騰している。水は大きな恐ろしい波を立てて逆巻き、そこに集まってたまり、太い水の綱で橋杭を引き抜こうとしてるかのように打ちつけている。そこに一度陥る者は再び姿を現わすことがなく、最も泳ぎに巧みな者も溺《おぼ》れてしまう。
 ジャヴェル
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