一つ安楽椅子のそばに据えられた。医者はマリユスを診察して、脈がまだ続いており、胸には一つも深い傷がなく、脣《くちびる》のすみの血は鼻孔から出てるものであることを検《しら》べ上げた後、彼を平たく寝台の上に寝かし、呼吸を自由にさせるために、上半身を裸にし、枕《まくら》を与えないで頭が身体と同じ高さに、というよりむしろ多少低くなるようにした。ジルノルマン嬢はマリユスが裸にされるのを見て席をはずした。そして自分の室《へや》で念珠祈祷《ねんじゅきとう》を唱えはじめた。
 胴体は内部におよぶ傷害を一つも受けていなかった。一弾は紙挾《かみばさ》みに勢いをそがれ、横にそれて脇《わき》にひどい裂傷を与えていたが、それは別に深くはなく、したがって危険なものではなかった。下水道の中を長く通ってきたために、折れた鎖骨はまったく食い違って、そこに重な損傷があった。両腕は一面にサーベルを受けていた。顔にはひどい傷は一つもなかった。けれども頭はすっかりめちゃくちゃになっていた。それらの頭部の傷はどういう結果をきたすであろうか、頭皮だけに止まってるのだろうか、脳をも侵してきはしないだろうか? その点がまだ不明だった。
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