よろしい。上ってゆくがいい。」とジャヴェルは言った。
 そして妙な表情をし、強《し》いて口をきいてるかのようなふうで言い添えた。
「わたしはここで君を待っている。」
 ジャン・ヴァルジャンはジャヴェルの顔をながめた。そんなやり方はジャヴェルの平素にも似合わぬことだった。けれども、今ジャヴェルが一種|傲然《ごうぜん》たる信任を彼に置いているとしても、それはおのれの爪《つめ》の長さだけの自由を鼠《ねずみ》に与える猫《ねこ》の信任であるし、またジャン・ヴァルジャンは一身を投げ出して万事を終わろうと決心していたので、別に大して驚くにも当たらないことだった。彼は戸を押し開き、家の中にはいり、もう寝ていて寝床の中から門を開く綱を引いてくれたその門番に、「私だ」と言い残し、階段を上っていった。
 二階にきて彼は立ち止まった。あらゆる悲しみの道にも足を休むべき場所がある。階段の上の窓は、揚げ戸窓になっていたが、いっぱい開かれていた。古い家には多く見受けられるとおり、その階段も外から明りが取られていて、街路が見えるようになっていた。ちょうど正面にある街路の光が少し階段に差して灯火《あかり》の倹約となって
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