御者は馬車のユトレヒト製ビロードが、被害者の血と加害者の泥《どろ》とで汚点だらけになったことを、「警視様」にうやうやしく申し出た。彼はその事件を殺害だと思っていたのである。そして損害を弁償してもらわなければならないと言い添えた。同時に彼はポケットから手帳を取り出して、「何とか御証明を一行」その上に書いていただきたいと警視様に願った。
 ジャヴェルは御者が差し出してる手帳を退けて言った。
「待ち合わせと馬車代とをいれて全部でいくらほしいのか。」
「七時間と十五分になりますし、」と御者は答えた、「ビロードはま新しだったものですから、警視様、八十フランいただきましょう。」
 ジャヴェルはポケットからナポレオン金貨を四つ取り出して与え、馬車を返してやった。

 ジャン・ヴァルジャンはすぐ近くにあるブラン・マントーの衛舎かアルシーヴの衛舎かに、ジャヴェルが自分を徒歩で連れてゆくつもりだろうと思った。
 彼らはオンム・アルメ街にはいって行った。街路はいつものとおり寂然としていた。ジャヴェルはジャン・ヴァルジャンのあとに従った。彼らは七番地に達した。ジャン・ヴァルジャンは門を叩いた。門は開いた。

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