ヴァルジャンが望んでいることは何であったか? 既にはじめたところをなし終えること、すなわち、コゼットに事情を知らせ、彼女にマリユスの居所を告げ、他の何か有益な注意を与え、またでき得るならばある最後の処置を取ることだった。彼自身のことは、彼一身に関することは、万事終わっていた。彼はジャヴェルに捕えられ、少しも抵抗しなかった。もし他の者がそういう地位に立ったら、テナルディエにもらった綱とこれからはいるべき第一の地牢《ちろう》の格子窓《こうしまど》とに、おそらく漠然《ばくぜん》と思いを馳《は》せたであろう。しかしミリエル司教に会って以来ジャン・ヴァルジャンのうちには、あらゆる暴行に対して、あえて言うが自身の生命を害する暴行に対しても、深い敬虔《けいけん》な躊躇《ちゅうちょ》の情があったのである。
 自殺ということは、未知の世界に対する一種神秘的な違法行為であり、ある程度まで魂の死を含み得るものであって、ジャン・ヴァルジャンにはなし得ないことだった。
 オンム・アルメ街の入り口で馬車は止まった。その街路は非常に狭くて馬車ははいれなかった。ジャヴェルとジャン・ヴァルジャンとは馬車から降りた。
 
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