て、もうただ柩《ひつぎ》を待ってるのみであるように思われた。ジャン・ヴァルジャンは影でできてるかのようであり、ジャヴェルは石でできてるかのようだった。そして馬車の中はまったくの暗夜であって、街灯の前を通るたびごとに、明滅する電光で照らされるように内部が青白くひらめいた。死骸《しがい》と幽霊と彫像と、三つの悲壮な不動の姿が、偶然いっしょに集まって、ものすごく顔をつき合わしてるかと思われた。
十 生命を惜しまぬ息子《むすこ》の帰宅
舗石《しきいし》の上に馬車が揺れるたびごとに、マリユスの頭髪から一滴ずつ血がたれた。
馬車がフィーユ・デュ・カルヴェール街六番地に達した時は、もうま夜中だった。
ジャヴェルはまっさきに馬車からおり、大門の上についてる番地を一目で見て取り、牡山羊《おやぎ》とサチール神とが向かい合ってる古風な装飾のある練鉄の重い金槌《かなづち》を取って、案内の鐘を一つ激しくたたいた。片方の扉《とびら》が少し開いた。ジャヴェルはそれを大きく押し開いた。門番は欠伸《あくび》をしながら、ぼんやり目をさましたようなふうで、手に蝋燭《ろうそく》を持って半身を現わした。
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