き、それをジャヴェルに差し出した。
 文字が読めるくらいの光は、まだ空中に漂っていた。その上ジャヴェルの目は、夜の鳥のように暗中にも見える一種の燐光《りんこう》を持っていた。彼はマリユスの書いた数行を読み分けてつぶやいた。
「フィーユ・デュ・カルヴェール街六番地、ジルノルマン。」
 それから彼は叫んだ。「おい、御者!」
 読者の思い起こすとおり、辻馬車《つじばしゃ》は万一の場合のために待っていた。
 ジャヴェルはマリユスの紙挾《かみばさ》みを取り上げてしまった。
 まもなく、馬車は水飲み場の傾斜をおりて汀《みぎわ》までやってき、マリユスは奥の腰掛けの上に置かれ、ジャヴェルとジャン・ヴァルジャンとは相並んで前の腰掛けにすわった。
 戸は閉ざされ、辻馬車《つじばしゃ》はすみやかに遠ざかって、川岸通りをバスティーユの方向へ上っていった。
 一同は川岸通りを去って、街路にはいった。御者台の上に黒く浮き出してる御者は、やせた馬に鞭《むち》をあてていた。馬車の中は氷のような沈黙に満たされていた。マリユスは身動きもせず、奥のすみに身体をよせかけ、頭を胸の上にぐたりとたれ、両腕をぶら下げ、足は固くなっ
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