出たのである。
 毒気と暗黒と恐怖とは背後になった。自由に呼吸される清純な生きた楽しい健全な空気は、あたりにあふれていた。周囲は至る所静寂であったが、しかしそれは蒼空《あおぞら》のうちに太陽が沈んでいった後の麗わしい静寂だった。薄暮の頃で、夜はきかかっていた。夜こそは大なる救済者であり、苦難から出るために影のマントを必要とするあらゆる魂の友である。空は大きな平穏となって四方にひろがっていた。川は脣《くち》づけをするような音を立てて足下に流れていた。シャン・ゼリゼーの楡《にれ》の木立ちの中には、互いに就寝のあいさつをかわしてる小鳥の軽い対話が聞こえていた。ほの青い中天をかすかに通してただ夢想の目にのみ見える二、三の星は、無辺際のうちに小さな点となって輝いていた。夕はジャン・ヴァルジャンの頭の上に、無窮なるものの有するあらゆる静穏を展開していた。
 しかりとも否とも言い難い微妙な不分明な時間だった。既に夜の靄《もや》はかなり濃くなっていて、少し離るれば人の姿もよくわからないが、なお昼の明るみはかなり残っていて、近くに寄れば相手の顔が認められた。
 ジャン・ヴァルジャンはしばらくの間、そのお
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