《とびら》は開いた。擦《す》れる音もせず、軋《きし》る音もしなかった。ごく静かに開かれてしまった。それでみると明らかに、鉄格子と肱金《ひじがね》とはよく油が塗られていて、思ったよりしばしば開かれていたものらしい。その静けさは気味悪いものだった。隠密な往来がそこに感ぜられ、夜の男どもの黙々たる出入りと罪悪の狼《おおかみ》の足音とがそこに感ぜられた。下水道はまさしく、秘密な盗賊仲間の同類だった。音を立てないその鉄格子は贓品《ぞうひん》受け取り人だった。
テナルディエは扉《とびら》を少し開き、ジャン・ヴァルジャンにちょうど通れるだけのすき間を与え、鉄格子《てつごうし》を再び閉ざし、錠前の中に二度|鍵《かぎ》を回し、息の根ほどの音も立てないで、暗黒の中にまた没してしまった、彼は虎のビロードのような足で歩いてるかと思われた。一瞬間の後には、天意ともいうべきその嫌悪《けんお》すべき男は、目に見えないもののうちにはいり込んでしまっていた。
ジャン・ヴァルジャンは外に出た。
九 死人と思わるるマリユス
ジャン・ヴァルジャンはマリユスを汀《みぎわ》の上にすべりおろした。
彼らは外に
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