見つけられるようなその残壊物の堆積のうしろに、うまく身を隠そうとでも思っていたのだろうか。それは児戯に類する手段であった。彼も確かにそんなことを考えていたのではあるまい。それほど知恵のない盗人は世にあるものではない。
 残壊物の堆積は水ぎわに高くそびえていて、川岸通りの壁まで岬《みさき》のようにつき出ていた。
 追われてる男は、その小さな丘の所まで行って、それを回った。そのためにもひとりの男からは見えなくなった。
 あとの男は、相手の姿を見ることができなくなったが、それとともに先方から見られることもなくなった。彼はその機会に乗じて、今までの仮面を脱してごく早く歩き出した。間もなく残壊物の丘の所に達して、それを一巡した。そして彼は惘然《ぼうぜん》として立ち止まった。彼が追っかけてきた男はもうそこにいなかった。
 仕事服の男はまったく雲隠れしてしまったのである。
 汀《みぎわ》は残壊物の堆積から先には三十歩ばかりしかなく、川岸通りの壁に打ちつけてる水の中に没していた。
 逃走者がセーヌ川に身を投ずるか川岸通りによじ上るかすれば、必ず追跡者の目に止まったはずである。いったい彼はどうなったので
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