馬車《つじばしゃ》を汀《みぎわ》から見つけて、御者に合い図をした。御者はその合い図を了解し、またきっと相手がどういう人であるかを見て取ったのだろう、手綱を回らして、川岸通りの上から並み足でふたりの男について行き始めた。そのことは、先に歩いてるぼろ服の怪しい男からは気づかれなかった。
辻馬車はシャン・ゼリゼーの並み木に沿って進んでいた。手に鞭《むち》を持ってる御者の半身が胸欄の上から見えていた。
警官らに与えられてる警察の秘密訓令の一つに、こういう個条がある。「不時の事件のためには常に辻馬車を手に入れ置くべし。」
互いにみごとな戦略をもって行動しながらふたりの男は、川岸通りの傾斜が水ぎわまで下ってる所に近づいていった。そこは当時、パッシーから到着する辻馬車の御者らが、馬に水を飲ませるために川までおりてゆけるようになっていた。けれどもその傾斜は、全体の調和を保つためにその後つぶされてしまった。馬はそのために喉《のど》をかわかしているが、見た所の体裁はよくなっている。
仕事服の男は、シャン・ゼリゼーに逃げ込むためにその傾斜を上ってゆくつもりらしかった。シャン・ゼリゼーは樹木の立ち並ん
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