認めてやらなければならない。暴動も警察の目から見れば、悪漢らを手放しにするの口実とはならないし、政府が危険に瀕《ひん》しているからといって、社会を閑却するの口実とはならない。平常の職務は、異常な場合の職務の間にも正確に尽されていて、少しも乱されてはいなかった。政治上の大事件が始まってる最中にも、あるいは革命となるかも知れないという不安の下にも、反乱や防寨《ぼうさい》に気を散らさるることなく、警官は盗賊を「尾行」していた。
ちょうどそういう一事が、六月六日の午後、セーヌ右岸のアンヴァリード橋の少し先の汀《みぎわ》で行なわれていた。
今日ではもうそこに川岸の汀はない。場所のありさまは一変している。
さてその川岸の汀の上で、ある距離をへだててる二人の男が、明らかに互いの目を避けながらも互いに注意し合ってるらしかった。先に行く男は遠ざかろうとしていたし、あとからついてゆく男は近寄ろうとしていた。
それはあたかも遠くから黙ってなされてる将棋のようなものだった。どちらも急ぐ様子はなく、ゆるやかに歩いていた。あまり急いでかえって相手の歩みを倍加させはすまいかと、互いに気使ってるがようだった。
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