去る前に、見捨ててゆく方面へ向かって、すなわちジャン・ヴァルジャンの方へ向かって、カラビン銃を発射した。その響きは隧道《すいどう》の中に反響また反響となって伝わり、あたかもその巨大な腸の腹鳴りするがようだった。一片の漆喰《しっくい》が流れの中に落ちて、数歩の所に水をはね上げたので、ジャン・ヴァルジャンは頭の上の丸天井に弾があたったのを知った。
 調子を取ったゆるやかな足音が、しばらく隧道の底部の上に響き、遠ざかるにしたがってしだいに弱くなり、一群の黒い影は見えなくなり、ちらちらと漂ってる光が、丸天井に丸い赤味を見せていたが、それも小さくなってついに消えてしまい、静寂はまた深くなり、暗黒はまた一面にひろがり、その闇《やみ》の中にはもう何も見えるものもなく聞こゆるものもなくなってしまった。けれどもジャン・ヴァルジャンは、なおあえて身動きもせずに、長い間壁に背をもたしてたたずみ、耳を傾け、瞳《ひとみ》をひろげて、その一隊の幻が消えうせるのをながめていた。

     三 尾行されたる男

 世間の重大な騒擾《そうじょう》の最中にも平然として保安と監視との義務を怠らなかったことは、当時の警察に
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