ながめ、あたかもおのれの目でそこに穴を明けようとしてるかと思われた。
 ながめてるうちに、深い心痛のうちにも漠然《ばくぜん》と認めらるる何かが浮き出してきて、彼の足下に一定の形を取って現われた。あたかも目の力でそこに望む物を作り出したかのようだった。すなわち数歩先の所に、外部からきびしく監視され待ち受けられてる小さな防寨《ぼうさい》の根本に、積まれた舗石《しきいし》の乱れてる下に半ば隠されて、地面と水平に平たく置かれてる鉄格子《てつごうし》を、彼は見つけたのである。その格子は、丈夫な鉄の棒を横に渡して作られたもので、二尺四方くらいの大きさだった。それを堅めてる周囲の舗石がめくられたので、錠をはずされたようになっていた。鉄棒の間からは、煖炉の煙筒か水槽の管のような暗い穴が見えていた。ジャン・ヴァルジャンは飛んでいった。昔の脱走の知識が、電光のように彼の頭に上がってきた。上に重なってる舗石をはねのけ、鉄格子を引き上げ、死体のようにぐったりとなってるマリユスを肩にかつぎ、背中にその重荷をつけたまま、肱《ひじ》と膝《ひざ》との力によって、幸いにもあまり深くない井戸のようなその穴の中におりてゆき
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