、頭の上に重い鉄の蓋《ふた》をおろし、その上にまた揺らいでる舗石を自然にくずれ落ちてこさせ、地下三メートルの所にある舗石の面に足をおろすこと、それだけのことを彼は、あたかも狂乱のうちになすかのように、巨人の力と鷲《わし》の迅速《じんそく》さとをもってなし遂げた。わずかに数分間を費やしたのみだった。
 かくてジャン・ヴァルジャンは、まだ気を失ってるマリユスと共に、地下の長い廊下みたいなものの中に出た。
 そこは、深い静穏、まったくの沈黙、闇夜《やみよ》のみであった。
 昔街路から修道院の中に落ちこんだ時に感じた印象が、彼の頭に浮かんできた。ただ、彼が今になっているのは、コゼットではなくてマリユスであった。
 襲撃を受けてる居酒屋の恐ろしい騒擾《そうじょう》の響きも、今や漠然《ばくぜん》たるつぶやきの声のように、かすかに頭の上方に聞こえるきりだった。
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   第二編 怪物の腸


     一 海のために痩《や》する土地

 パリーは年に二千五百万フランの金を水に投じている、しかもこれは比喩《ひゆ》ではない。いかにしてまたいかなる方法でか? 否昼夜の別なく常になされている。
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