右手には、プティート・トリュアンドリーの方をふさいでるかなり低い防寨《ぼうさい》があった。その障壁をまたぎ越すのはわけはなさそうだったが、しかしその頂の上から、一列の銃剣の先が見えていた。防寨の向こうに配備されて待ち受けてる戦列歩兵の分隊だった。明らかに、その防寨を越すことはわざわざ銃火を受けに行くようなものであり、その舗石《しきいし》の壁の上からのぞき出す頭は、六十梃《ろくじっちょう》の銃火の的となるのだった。左手には戦場があった。壁の角の向こうには死が控えていた。
 どうしたらよいか?
 そこから脱し得るのはおそらく鳥のみであろう。
 しかも、直ちに方法を定め、工夫をめぐらし、決心を堅めなければならなかった。数歩先の所で戦いは行なわれていた。幸いなことには、ただ一点に、居酒屋の戸口に向かってのみ、すべての者が飛びかかっていた。しかし、ひとりの兵士が、ただひとりでも、家を回ろうという考えを起こすか、あるいは側面から攻撃しようという考えを起こしたならば、万事休するのだった。
 ジャン・ヴァルジャンは正面の家をながめ、傍の防寨をながめ、次には、狂乱の体になってせっぱつまった猛烈さで地面を
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