か掲げなかった。それは黒い旗であった。
二 深淵《しんえん》中の会談
暴動の陰暗な教育を受くること満十六年に及んだので、一八四八年六月は一八三二年六月よりもはるかに知力が進んでいた。それでシャンヴルリー街の防寨は、上に概説した二つの巨大な防寨に比ぶれば、一つの草案に過ぎず一つの胎児に過ぎなかった。しかし当時にあっては、それでも恐るべきものであった。
マリユスはもはや何物にも注意を向けていなかったので、暴徒らはただアンジョーラひとりの監視の下に、暗夜に乗じて仕事をした。防寨は修繕されたばかりでなく、なお大きくされた。上の方へも二尺ほど高められた。舗石《しきいし》の中に立てられた鉄棒は、槍《やり》をつき立てたようだった。方々から持ってきて加えられたあらゆる種類の物の破片は、ますますその外部を錯雑していた。いかにも巧妙に築かれた角面堡《かくめんほう》で、内部は壁のごとく、外部は藪《やぶ》のようだった。
城壁のように上に上ってる舗石の段は、再び築き直された。
人々は防寨《ぼうさい》を整え、居酒屋の下の広間を片付け、料理場を野戦病院となし、負傷者に繃帯《ほうたい》を施し、床
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