であり、タンプルの防寨は沈黙であった。この二つの角面堡《かくめんほう》の間には獰猛《どうもう》と凄惨《せいさん》との差があった。一つは顎《あご》のごとく、一つは仮面のようだった。
この六月の巨大な暗黒な反乱が一つの憤怒と一つの謎《なぞ》とでできていたとすれば、第一の防寨のうちには竜《ドラゴン》が感ぜられ、第二の防寨の背後にはスフィンクスが感ぜられた。
この二つの砦《とりで》は、クールネとバルテルミーというふたりの男によって築かれたものである。クールネはサン・タントアーヌの防寨を作り、バルテルミーはタンプルの防寨を作った。どちらの防寨も、築造者の面影を帯びていた。
クールネは高い体躯《たいく》の男であった。大きな肩、赤い顔、力強い拳《こぶし》、大胆な心、公正な魂、まじめな恐ろしい目をそなえていた。勇敢で、元気で、激しやすく、猛烈だった。最も真実な男であり、最も恐るべき勇士だった。戦争、争闘、白兵戦、などは彼の固有の空気であり、彼の気を引き立たした。かつて海軍士官だったことがあり、その身振りや声をみても、大洋から出てき暴風雨を経てきたことが察せられた。彼は戦いのうちにもなお暴風をもた
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