た。
十八 餌食《えじき》となれる禿鷹《はげたか》
なお防寨《ぼうさい》に独特な心理的事実を一つ述べておきたい。この驚くべき市街戦の特色は一つたりとも省いてはいけないからである。
上に述べたとおりその内部はいかにも不思議なほど静穏であるけれども、それでも中にいる人々にとっては、防寨はやはり一つの幻のごとく感じられるものである。
内乱の中には黙示録的神秘がある。未知の世界のあらゆる靄《もや》は荒々しい炎を交じえている。革命はスフィンクスである。防寨の中を通った者はだれでも、夢の中を過ぎたかと自ら思う。
そういう場所で人が感ずるところのものは、既にわれわれがマリユスについて指摘してきたとおりであり、また結果もやがて述べんとするとおりであるが、実に生《せい》以上でありまた以下である。一度防寨を出れば、そこで何を見てきたかはもうわからなくなる。恐ろしいものであったが、さて何であったかはわからない。人の顔をして戦ってる多くの観念にとりかこまれていた。未来の光明の中に頭をつき込んでいた。死体が横たわり幽霊がつっ立っていた。時間は巨大であって永劫《えいごう》が有する時間のようだ
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