あることを、おそらく想到し得ないだろう。人々は行ききたり、語り、戯れ、ぶらぶらしている。霰弾《さんだん》の中でひとりの兵士が、「ここはまったく[#「ここはまったく」に傍点]独身者《ひとりもの》の朝飯のようだ[#「の朝飯のようだ」に傍点]」と言ったのを、実際耳にした男をわれわれは知っている。繰り返して言うが、シャンヴルリー街の角面堡《かくめんほう》の中は、至って静穏らしく見えていた。あらゆる事変や局面は、すべて通過し終わっていた、もしくは通過し終わらんとしていた。状況は危急なものから恐ろしいものとなり、恐ろしいものから更に絶望的なものとなろうとしていた。状況が暗澹《あんたん》となるに従って、勇壮な光はますます防寨《ぼうさい》を赤く染めていた。アンジョーラは若いスパルタ人が抜き身の剣を陰惨な鬼神エピドタスにささげるような態度で、おごそかに防寨に臨んでいた。
 コンブフェールは腹部に前掛けをつけて負傷者らの手当てをしていた。ボシュエとフイイーとはガヴローシュが上等兵の死体から取った火薬筒で弾薬を作っていたが、ボシュエはフイイーにこう言った、「われわれはじきに他の遊星へ旅立つんだ[#「われわれ
前へ 次へ
全618ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング