た。白い動物にふさわしいいかにもゆったりした威風だった。
「シーニュ([#ここから割り注]白鳥[#ここで割り注終わり])にはシーニュ([#ここから割り注]合い図[#ここで割り注終わり])がわかる。」と市民はその頓知《とんち》を得意そうに言った。
 その時、遠くの騒擾の響きはまた急に高まった。こんどはすごいように聞こえてきた。同じく一陣の風にも特にはっきりと意味を語るものがある。その時吹いてきた風は、太鼓のとどろきや鬨《とき》の声や一隊の兵の銃火の音や警鐘と大砲との沈痛な応答の響きなどを、はっきりと伝えていた。それとちょうど一致して、一団の黒雲がにわかに太陽を蔽うた。
 白鳥はまだ菓子パンに達していなかった。
「帰ろう。」と父は言った。「テュイルリーの宮殿が攻撃されてる。」
 彼はまた子供の手を取った。それから言い添えた。
「テュイルリーとリュクサンブールとは、皇族と貴族との間ぐらいしか離れていない。間は遠くない。鉄砲の弾が雨のように飛んでくるかも知れない。」
 彼は空の雲をながめた。
「そしてまた本当の雨も降りそうだ。空までいっしょになってる。ブランシュ・カデットは([#ここから割り注
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