刺に富んだ詩人[#ここで割り注終わり])などのような言葉が、更に隠語を交じえてそれから流れ出る。その上方から群集の上に、野卑な文句が投げつけられる。できる限りたくさんの人を積んでるその馬車は、戦利品のようなありさまに見える。前部は喧騒《けんそう》をきわめ、後部は混雑をきわめている。一同は怒鳴り、喚《わめ》き、吼《ほ》え、笑い、有頂天になっている。快活の気はわき立ち、譏刺《きし》は燃え上がり、陽気さは緋衣《ひい》のようにひろがっている。二匹の痩馬《やせうま》は、花を開いてる滑稽を神に祭り上げて引いてゆく。それは哄笑《こうしょう》の凱旋車《がいせんしゃ》である。
 その哄笑は、露骨というにはあまりに皮肉すぎる。実際その笑いには怪しげな気がこもっている。それは一つの使命を帯びてるのである。パリー人に謝肉祭を示すの役目を持ってるのである。
 それら野卑無作法な馬車には、何となく暗黒の気が感ぜらるるものであって、思索家をして夢想に沈ませる。その中には政府がいる。公人と公娼《こうしょう》との不思議な和合がそこにはっきりと感ぜらるる。
 種々の醜悪が積み重なって一つの快活さを作り上げること、破廉恥と卑賤《ひせん》とを積み上げて民衆を酔わすこと、間諜が醜業をささえる柱となって衆人を侮辱しながらかえって衆人を侮辱しながらかえって衆人を笑わせること、金ぴかのぼろであり、半ば醜業と光明とであり、吠《ほ》えまた歌っている、その生きた恐ろしい積み荷が、辻馬車《つじばしゃ》の四つの車輪に運ばれてゆくのを見て、群集が喜ぶこと、あらゆる恥辱でできてるその光栄に向かって、人々が手をたたいて喝采《かっさい》すること、二十の頭を持った喜悦の怪蛇《かいだ》を自分たちのまんなかに引き回してもらうという以外には、群集にとって何らおもしろいにぎわいもないということ、それは確かに悲しむべきことである。しかしどうしたらいいのか。リボンと花とで飾られた汚賤《おせん》のそれらの車は、公衆の笑いによって侮辱されながら赦《ゆる》されているではないか。すべての者の笑いは、一般の堕落を助ける。ある種の不健全なにぎわいは、民衆を分散さして多衆となす。そして多衆にとっては暴君にとってと同じく、諧謔《かいぎゃく》が必要である。国王にはロクロールがあり、人民にはパイヤスがある([#ここから割り注]訳者注 前者はルイ十四世の下にいた諧謔をもって知られし将軍、後者は卑俗な喜劇によく出て来る一種の道化役[#ここで割り注終わり])。パリーは荘厳な大都市たることを止むる時には常に狂愚な大都会となる。謝肉祭はその政治の一部分となっている。うち明けて言えば、パリーは好んで破廉恥な喜劇を受け容れる。もし主人があれば、その主人はただ一事をしか求めない、すなわちわれに泥《どろ》を塗ってくれと。ローマも同じ気質を持っていた。ローマはネロを愛していた。しかるにネロは巨大なる泥塗り人であった。
 さて、前に言ったとおり、婚礼の行列が大通りの右側に止まった時偶然にも、仮面をつけた男女が房のようにかたまって乗り込んでるその大きな四輪馬車の一つが、大通りの左側に止まった。そして仮装馬車はちょうど新婦の馬車と大通りをはさんで向かい合った。
「おや!」と仮装のひとりが言った、「婚礼だ。」
「嘘《うそ》の婚礼だ。」と他のひとりが言った。「本物は俺《おれ》たちの方だ。」
 そして、婚礼の列の方へ言葉をかけるには少し離れすぎていたし、また巡査の制止の声を恐れていたので、仮装のふたりは他の方を向いた。
 すぐに、仮装馬車の者らはごく忙しくなった。群集が彼らに悪罵《あくば》の声をかけ始めた。それは仮装の者らに対する群集の愛撫である。今言葉をかわしたふたりも、仲間の者らといっしょに、衆人に立ち向かわなければならなかった。彼らは道化者のあらゆる武器を持っていたが、無数の人々の悪謔《あくぎゃく》を相手にして他を顧みるの余裕がなかった。そして仮装の者らと群集との間に激しく諧謔《かいぎゃく》がかわされた。
 そのうちに、同じ馬車に乗っていた他の仮装のふたり、すなわちお爺《じい》さんのふうをしてばかに大きな黒髭《くろひげ》をつけてる鼻の大きなスペイン人と、黒ビロードの仮面をつけてるごく若いやせたはすっぱ娘とが、やはり婚礼の馬車に目を止めて、仲間の者らと道行人らとが互いに野次りかわしてる間に、低い声で話をした。
 彼らのふたりの内緒話は、喧騒《けんそう》の声に包まれて他にもれなかった。去来する雨に、あけ放してある馬車の中はすっかりぬれていた。それに二月の風はまだ寒い。スペイン人に答えながら、首筋をあらわにしたはすっぱ娘の方は、震え笑いかつ咳《せき》をしていた。
 その会話は次のとおりだった。([#ここから割り注]訳者注 以下の会話は隠語を交じえたものと想
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