も、命令を伝えられし後、同様になすべし。
   祝福と友愛
        L
[#ここで字下げ終わり]

 その時この拾い物のことを知った人々も、ずっと後になってしか、四つの大文字の意味を解することはできなかった。それは次の意味の頭字だった、「五百人長[#「五百人長」に傍点]、百人長[#「百人長」に傍点]、十人長[#「十人長」に傍点]、捜索兵[#「捜索兵」に傍点]。」また右下の小文字は次の日付だった、一八三二年四月十五日[#「一八三二年四月十五日」に傍点]。それからまた四つの大文字の下には各、きわめて特殊な指示がついてる名前が書き添えてあった。たとえば次のようだった。「Q、バヌレル[#「バヌレル」に傍点]、小銃八、弾薬八十三、確実なる男。――C、ブービエール[#「ブービエール」に傍点]、ピストル一、弾薬四十。――D、ロレ[#「ロレ」に傍点]、竹刀一、ピストル一、火薬一斤。――E、テーシエ[#「テーシエ」に傍点]、剣一、弾薬盒《だんやくごう》一、正確なる男。――テルール[#「テルール」に傍点]、小銃八、勇敢なる男。」その他種々。
 またその大工は、やはり同じ屋敷のうちで第三の紙片を拾った。それには鉛筆でではあるがごくはっきりと次の謎《なぞ》のような表が書いてあった。

[#ここから4字下げ]
単位。ブランシャール。アルブル・セック。六。
バラ。ソアーズ。サル・オー・コント。
コシュースコ。屠獣者《とじゅうしゃ》オーブリー?
J・J・R
カイユス・グラッキュス。
再審権。デュフォン・フール。
ジロンド派の没落。デルバク。モーブュエ。
ワシントン。パンソン。ピストル一、弾薬八十六。
マルセイエーズ。
人民の君主。ミシェル。カンカンポア。サブル。
オーシュ。
マルソー。プラトン。アルブル・セック。
ヴァルソヴィー。ポプュレール新聞売り子ティイー。
[#ここで字下げ終わり]

 右の表を保存していた正直な一市民は、その意味をついに了解することができた。表はおそらく、ドロア・ド・ロンム結社([#ここから割り注]人権結社[#ここで割り注終わり])の第四部各区隊の完全な表で、各区隊長の名前と住所とがついてるものであろう。今日では、隠密なそれらの事実ももう歴史となっているから、公表してもさしつかえないだろう。それからなおつけ加えて言うが、ドロア・ド・ロンム結社のできたのは、右の紙片が拾われた時よりも後のことであるらしい。おそらく右のものはその草案にすぎなかったろう。
 そのうちに、噂《うわさ》や言葉に次いで、また文書の証拠に次いで、こんどは具体的な事実が現われ始めた。
 ポパンクール街のある古物商の店で、戸棚の引き出しから、皆同じように縦に四つに折られた七枚の灰色の紙が出てきた。その下には、やはり同じ灰色の紙で弾薬莢《だんやくきょう》の形に折られた二十六の箱と、一枚の紙札とが隠されていた。紙札の上には次のことが書いてあった。

[#ここから4字下げ]
硝石《しょうせき》……十二オンス
硫黄《いおう》……二オンス
木炭……二オンス半
水……二オンス
[#ここで字下げ終わり]

 物件差し押さえの調書によれば、その引き出しには強い火薬のにおいがしていた由である。
 ひとりの泥工が、一日の仕事を終えて家に帰る時、オーステルリッツ橋のそばのベンチの上に小さな包みを置き忘れていった。その包みは衛舎に持ってゆかれた。開いてみると中には、ラオーティエール[#「ラオーティエール」に傍点]と署名した二つの対話の印刷物と、労働者よ団結せよ[#「労働者よ団結せよ」に傍点]という題の小唄《こうた》と、弾薬のいっぱいつまってるブリキ罐《かん》とがあった。
 ひとりの労働者が仲間のひとりと酒を飲んでいたが、こんなにほてると言って身体にさわらした。すると仲間は、彼の上衣の下にピストルがあるのを手先に感じた。
 ペール・ラシューズ墓地とトローヌ市門との間の大通りの溝《みぞ》の中に、ごく寂しい所で遊んでいた子供らが、木片や塵芥《じんかい》のうずたかい下に一つの袋を見いだした。中には種々なものがはいっていた、弾丸の鋳型、弾薬莢《だんやくきょう》を作るに用いる木製の軸、狩猟用の火薬の粒がはいってる鉢《はち》、内部には明らかに鉛をとかした跡が残ってる小さな坩堝《るつぼ》。
 ある日朝の五時に、警官らは不意にパルドンという男の家へ踏み込んだことがある。この男は後に、一八三四年四月の暴動の折り、バリカード・メリー区隊のうちにはいって戦死した者である。その朝警官らがふみ込むと、ちょうど彼は寝床のそばにつっ立って、製造中の弾薬莢を手に持ってるところだった。
 労働者らが休息する時分に、ピクピュス市門とシャラントン市門との間の、入り口にシアム遊びができてるある居酒屋の近くの、両側に壁のある狭い路地で、ふたりの労働者が落ち合うのが見られた。ひとりは上衣の下からピストルを取り出して相手に渡した。それを渡す時彼は、胸の湯気が伝わって火薬が少し湿気を帯びてることに気づいた。彼はピストルに雷管をつけ、火口の中につまってた火薬をなお少し多くした。それからふたりの男は別れた。
 後に四月の暴動中ボーブール街で殺された男であるが、ガレーという労働者は、家に弾薬を七百と小銃の弾石を二十四持ってると言って自慢していた。
 政府はある日、その郭外において武器と二十万の弾薬とが配布されたという情報を受けた。その次の週にはまた三万の弾薬が配布された。驚くべきことには、警察はその一つをも差し押さえることができなかった。横取りした手紙にはこうあった。――「四時間以内に八万の愛国者が武装し得るの日も遠くないであろう。」
 すべてかかる発酵は公然のことで、またほとんど静穏とさえも言えるほどだった。さし迫ってる暴動は、政府の面前で静かにその嵐を準備しつつあった。まだ地下のものではあったが既に見えそめてるその危機は、まったく独特な姿をそなえていた。中流民らは平然として、準備されてる事柄を労働者らに尋ねていた。あたかも「君のお上さんはどうだね」とでもいうような調子で、「暴動はどうだね?」と口に上《のぼ》していた。
 モロー街の一道具屋は尋ねた、「ところで、いつ攻撃するのかね?」
 またある商人は言った。
「間もなく攻撃が始まるんだね。わしは知ってるよ。一カ月前にはお前さんたちは一万五千人だったが、今ではもう二万五千人になってるじゃないか。」――そして彼は自分の銃を提供した。するとその隣の者は、七フランなら売ろうとしていた小さなピストルを一つ提供した。
 その上、革命の熱がひろがっていた。パリーの一地点として、またフランスの一地点として、その熱を免れてる所はなかった。動脈は至る所に高く鼓動していた。ある種の※[#「火+欣」、第3水準1−87−48]衝《きんしょう》から起こって人体のうちにできてくるあの皮膜のように、各種の秘密結社の網の目は全土にひろがり始めていた。公然でまた同時に秘密のものであった民衆の友の結社から、ドロア・ド・ロンム結社が生まれた。この結社の日程録の一つにはこういう日付があった、共和暦四十年雨月[#「共和暦四十年雨月」に傍点]。そしてそれは高等法院の解散命令布告の後までも存続したらしい。またこの結社では躊躇《ちゅうちょ》するところなく、次のような意味深い名称をその各区隊につけていた。

[#ここから4字下げ]
デ・ピク(槍)
トクサン([#ここから割り注]半鐘[#ここで割り注終わり])
カノン・ダラルム([#ここから割り注]警砲[#ここで割り注終わり])
ボンネ・フリジヤン([#ここから割り注]赤帽[#ここで割り注終わり])
一月二十一日([#ここから割り注]一七九三年国王ルイ十六世死刑執行の日[#ここで割り注終わり])
デ・グー([#ここから割り注]乞食[#ここで割り注終わり])
デ・トリュアン([#ここから割り注]無籍者[#ここで割り注終わり])
マルシュ・アン・ナヴァン([#ここから割り注]前進[#ここで割り注終わり])
ロベスピエール
ニヴォー([#ここから割り注]水準[#ここで割り注終わり])
サ・イラ([#ここから割り注]革命歌の一種[#ここで割り注終わり])
[#ここで字下げ終わり]

 ドロア・ド・ロンム結社はアクシオン結社([#ここから割り注]行動結社[#ここで割り注終わり])を産んだ。それは分離して前方へ駆け出した血気の者らであった。またその他にも、母体たる大結社から離れて団結しようとしてる者らがあった。
 区隊の者らは方々から引っ張られることに苦情を言っていた。かくしてできたものには、ゴール結社、市制編成委員会、または、出版の自由のための団結、個人の自由のための団結、民衆の教育のための団結、間接税反対の団結。次に平等労働者らの結社、そしてこれは三つの部分に分かれた、平等派、共産派、革命派。次にバスティーユ軍、これは軍隊式に組織された一種の隊であって、その上等兵は四人を率い、軍曹は十人を、少尉は二十人を、中尉は四十人を率いていたが、しかしその中で互いに五人以上の知り合いを持ってるような者はいなかった。まったく用心と大胆とをあわせ用いた組織で、ヴェニス人の才能を思わせるものだった。最上に位する中央の委員会は二つの強腕をそなえていた、すなわちアクシオン結社とバスティーユ軍とを。正統派の一団結たる忠誠騎士団は、それら共和派の結合の間に立って動揺し、彼らから摘発され絶縁されていた。
 パリーの各結社は、国内の重な都市に枝を伸ばしていった。リオン、ナント、リール、マルセイユ、などにもそれぞれ、ドロア・ド・ロンム結社や、カルボナリ派や、自由人派などがいた。エークスにも一つの革命的結社があって、普通にクーグールドと呼ばれていた。われわれはこの言葉を前に一度言っておいたことがある。
 パリーにおいては、サン・マルソー郭外もほとんどサン・タントアーヌ郭外に劣らず沸き立っていた、そして各学校もまたそれらの郭外に劣らず動揺していた。サン・ティアサント街の一|珈琲《コーヒー》店とマテュラン・サン・ジャック街のセー・ビヤール喫煙所とは、学生らの集合所となっていた。アンジェーの相互派とエークスのクーグールドとに連絡のあるABCの友の結社は、前に述べたとおりミューザン珈琲店に集合していた。またそれらの青年は、これも前に言っておいたとおり、モンデトゥール街に近いコラントと呼ばるる料理屋兼居酒屋にも集まっていた。それらの集合は秘密にされていた。しかしその他にはできるだけ公然となされてる集合もあって、その大胆さを知らんとするならば、後日開かれた一裁判中になされた尋問の一部を見てもわかるであろう。その会合はどこでなされたか。――ペー街です。――だれの家でか。――往来でです。――そこには何個区隊いたか。――一個区隊です。――何という区隊か。――マニュエル区隊です。――首領はだれだったか。――私です。――まだ若いところを見るとお前は、政府を攻撃しようなどという大胆な決心をただひとりでやったのではあるまい。どこから命令を受けたか。――中央委員会からです。
 軍隊もまた人民と同時に掘り返された。その後、ベルフォールやリュネヴィルやエピナルなどの動乱がそれを証拠立てた。当てにされていたのは、第五十二、第五、第八、第三十七の連隊と、第二十軽騎兵連隊とだった。ブールゴーニュや南部諸州の各都市では、自由の木[#「自由の木」に傍点]が立てられた、すなわち、赤色の帽子をかぶせた長い棒が。
 情況は右のとおりであった。
 かかる情況を、すべて民衆の他の集合地よりもすぐれてサン・タントアーヌ郭外が、本章の初めに述べたとおり、いっそう顕著ならしめ、いっそう強調さしていた。そこが急所だったのである。
 蟻《あり》の巣のように人がたかっており、蜜蜂《みつばち》の巣のように勤勉で勇敢でたけり立っているその古い郭外は、動乱の期待と希望とのうちに震えていた。労働は以前のとおり続けられながらもすべてが動揺していた。そのはつらつとしたしかも陰鬱《いんうつ
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