ず、そういう妥協に対しては髪を逆立てて憤ったであろう。しかし彼の一団のうちには他に警視らも交じっていて、彼の下に属してはいるが彼よりもいっそう警視庁の機密に通じてる者がいないとは限らなかった。そしてクラクズーは一方にごく有能な刑事であり得るほどの悪党だったかも知れなかった。そういう使い分けの親しい関係を暗夜の方面に保ってることは、盗賊の仕事には好都合であり、警察の仕事には便宜である。そういう両端を持する悪漢も世にはずいぶんいる。がそれはともかくとして、逃げたクラクズーの姿は再び見いだせなかった。ジャヴェルはそれについて驚いたというよりもむしろいっそう激昂《げっこう》した。
ジャヴェルから名前を忘れられた「こわがったに違いない野呂間弁護士《のろまべんごし》」たるマリユスについては、ジャヴェルもあまり念頭にしていなかった。その上、弁護士ならいつでもまたさがし出される。しかしその男は単なる弁護士のみだったろうか?
審問は始められていた。
予審判事は、パトロン・ミネットの仲間のひとりを密室に監禁しない方がいいと認めた。何かを口外させようと思ったのである。選ばれたのは、プティー・バンキエ街
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