B彼はそこに、戸口の標石の上にすわって、氷の悪鬼のようにじっとしていた。絶望のうちにも氷結があるものである。遠くには警鐘の響きと漠然《ばくぜん》たる喧騒《けんそう》の音とが聞こえていた。暴動に交じったそれらの鐘の響きの中に、サン・ポールの大時計が、おごそかに落ち着いて十一時を報じた。騒がしい警鐘は人間の業《わざ》であり、落ち着いた時の鐘は神の業《わざ》である。しかし時間の経過はジャン・ヴァルジャンの上に何らの影響も与えず、彼は身動きさえしなかった。ところが間もなく、一斉射撃《いっせいしゃげき》の音が突然市場町の方面に起こり、次にまた更に激しい一斉射撃の音が起こった。それはおそらく、既に述べきたったとおり、マリユスによって撃退されたシャンヴルリー街の防寨《ぼうさい》の攻撃であったろう。夜の静けさのためいっそう猛烈に聞こえるその二度の射撃の音に、ジャン・ヴァルジャンは身を震わし、音のした方を向いて立ち上がった。しかし次にまた彼は、標石の上に腰をおろし、両腕を組み、頭はまた静かに胸にたれてしまった。
 彼は再び暗澹《あんたん》たる独語を始めた。
 突然彼は目を上げた。街路をだれか歩いていて、
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