ノしかと足をふみしめ得る者は、世にあまりない。苦悶《くもん》の限度を越える時には、最も確固たる徳操も乱されるものである。ジャン・ヴァルジャンは再び吸い取り紙を取り上げて、また新たにはっきりと事実を見た。彼は身をかがめ石のようになって、その厳乎《げんこ》たる数行の文字にじっと目を据えた。そして内心のすべてが崩壊してるかと思われるような暗雲が、彼のうちに起こってきた。
彼はその啓示を、自分の夢想でいっそう拡大しながら、外観上はいかにも恐ろしく落ち着き払って、よく調べてみた。人の落ち着きも立像のような冷酷さに達する時には、恐怖すべきありさまを呈する。
彼は自分の気づかぬうちに宿命が恐るべき歩みをなしたことを考えてみた。愚かにもすぐに打ち消してしまった前年の夏の心痛を思い起こした。そして再び深淵《しんえん》を見いだした。万事は少しも変わっていなかった。ただジャン・ヴァルジャンは、今はその縁に立ってるのではなく、その底に陥ってるのであった。
痛切な驚くべきことには、彼は自ら気づかないでそこに陥っていたのである。自分では常に太陽を見ていると思いながら、生のあらゆる光明は既に消えうせていたので
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