ナ、いまだかつていかなる試練にも屈したことはなかった。彼は幾多の恐るべき試みに会ってきた。あらゆる不運の道をことごとく通ってきた。凶猛なる運命は、あらゆる追求と社会的迫害とをもって、彼を目ざして襲いかかってきた。しかし彼はいかなるものの前にも退かず撓《たゆ》まなかった。やむを得ざる場合にはいかなる難事をも甘んじて受けた。回復し得た犯すべからざる人権をも犠牲に供し、自由をも捨て、おのれの首をも危険にさらし、すべてを失い、すべての苦しみをなめ、しかも常に打算を排し私念を去り、時としては殉教者にも等しいと思われるくらいにおのれを空《むな》しゅうした。かくて不運のあらゆる襲撃に鍛えられた彼の本心は、永久に難攻不落なるかの観があった。しかるに今、彼の内心をのぞいてみると、それが弱っていることを認めざるを得ないのだった。
というのも、宿命の長い審問のうちにおいて彼が受けたあらゆる拷問の中で、こんどのものこそ最も恐るべきものだったからである。かつて彼はかかる激しい責め道具に掛かったことはなかった。彼は内心のあらゆる感受性が異様に痙攣《けいれん》するのを感じた。まだ知らない神経がつみ取られるのを感じ
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