Iンム・アルメ街は薄暗い街路で住民も静かであって、ジャン・ヴァルジャンはパリーのその古い小路から何となく静安の気が伝わって来るような気がした。街路は狭くて、二本の柱の上に渡した厚板で馬車をさえぎっており、騒々しい都市の中央にあって聾《つんぼ》で唖《おし》のようで、まっ昼間も薄暗く、百年以上も古びて黙ってる高い人家の軒並みの間に、いかなることがあっても冷然と構えてるがようだった。一種忘却の気が街路のうちによどんでるかと思われた。ジャン・ヴァルジャンはほっと吐息をついた。そこにいればほとんど見つかる憂いはなさそうだった。
 彼の第一の仕事は、例のつき物[#「つき物」に傍点]を自分のそばに置くことだった。
 彼はよく眠れた。夜は助言を与える([#ここから割り注]訳者注 一晩ねて考える方がいいという意味のことわざ[#ここで割り注終わり])というが、夜は心を和らげると付け加えることもできる。彼は翌朝目をさますと、ほとんど心が快活になっていた。食堂はごく粗末で、古い円卓が一つ、上には斜めに鏡が立ててある低い食器棚が一つ、破れた肱掛《ひじか》け椅子《いす》が一つ、トゥーサンの荷物がいっぱいのせてある
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