Wャンはトゥーサンをも連れていった。それは今まで家を空《あ》けるおりにもかつてしなかったことである。彼はおそらく再びプリューメ街に戻ることはないだろうと思っていたし、またトゥーサンをあとに残すことも彼女に秘密を打ち明けることもできなかった。その上彼は、彼女は自分に身をささげていて信ずるに足りると思っていた。およそ召し使いの主人に対する背反は好奇心から始まる。しかるにトゥーサンは、あたかも元来ジャン・ヴァルジャンの召し使いと生まれてきたもののように、何ら好奇心を持たなかった。彼女は吃《ども》りながら、バルヌヴィルの田舎《いなか》言葉で言っていた。「わたしゃこう生まれついただ。自分の仕事ばしすりゃあええだ。他のこたあわたしの知ったことでねえだ。」
 ほとんど逃げ出すのと同様なプリューメ街からの引っ越しに、ジャン・ヴァルジャンがいっしょに携えたものは、コゼットが彼につき物[#「つき物」に傍点]だと言っていたかおりのいい小さな鞄《かばん》ばかりだった。物をつめ込んだ行李《こうり》を運べば運送屋がいるし、運送屋が来ればそれが証人となって足がつく。それでただ、バビローヌ街の出口に辻馬車《つじばしゃ
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