゚た額に脣《くちびる》をあてた。それはコゼットに不実な行ないではなかった。不幸なる魂に対する心からのやさしい別れだった。
 彼はエポニーヌから手紙を受け取った時、思わず身を震わした。彼は即座にその内容の重大なことを感じた。そして早く読んでみたくてたまらなかった。人の心はこうしたものである。不運な娘が目を閉じるや否やマリユスはもう手紙を開こうと思った。彼は娘の体を静かに下に置き、そして立ち去った。なぜともなく、その死骸《しがい》の前で手紙を読んではいけないような気がしたのである。
 彼は居酒屋の下の室《へや》にともってる蝋燭《ろうそく》に近寄った。手紙は小さく折りたたまれたもので、女らしいやさしい注意で封がしてあった。あて名は女の筆蹟でこう書かれていた。

[#ここから2字下げ]
ヴェールリー街十六番地、クールフェーラック様方、マリユス・ポンメルシー様へ。
[#ここで字下げ終わり]

 彼は封を切って読み下した。

[#ここから2字下げ]
いとしき御方、悲しくも父はすぐに出発すると申します。私どもは今晩、オンム・アルメ街七番地に参ります。一週間すればもうロンドンへ行っておりますでしょう。
前へ 次へ
全722ページ中677ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング