セ。
「マリユスさん!」とまた声がした。
 こんどはもう疑う余地はなかった。彼ははっきりとその声を耳にした。しかし見回してみたが何も見えなかった。
「あなたの足のところです。」とその声は言った。
 身をかがめて見ると、一つの影が自分の方へ寄ってきつつあった。それは鋪石《しきいし》の上をはっていた。呼びかけたのはそれだった。
 豆ランプの光にすかし見ると、だぶだぶの上衣と裂けた粗未なビロードのズボンと、靴《くつ》もはいていない足と、血潮のたまりみたいなものとが、目にはいった。ようやく認めらるる青白い顔が彼の方へ伸び上がって言った。
「あなたあたしがわかりますか。」
「いいや。」
「エポニーヌですよ。」
 マリユスは急に身をかがめた。実際それはあの不幸な娘だった。彼女は男の姿を装っていた。
「どうしてここへきたんだ? 何をしていた?」
「あたしもう死にます。」と彼女は言った。
 重荷に圧倒されてる人をも呼びさますほどの言葉と事件とが世にはある。マリユスは飛び上がるようにして叫んだ。
「傷を負ってるね! 待て、室《へや》の中に連れてってやろう。手当てをしてもらうといい。傷は重いのか。どういう
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