アとを気使ってか、迂回《うかい》を避けることである。それで反徒らの注意もすべて大きい防寨の方へ向けられていた。明らかにそここそ常に脅かされてる地点であって、必ずや再び戦いが始まるに違いない地点であった。けれどもマリユスは、小さい防寨のことを考えて、その方へ行ってみた。そこにはだれもいず、ただ舗石《しきいし》の間にまたたいてる豆ランプの光だけが番をしていた。それからまた、モンデトゥール街も、それに開いてるプティート・トリュアンドリー街とシーニュ街も、ひっそりと静まり返っていた。
 マリユスが視察を終えて引き返してこようとした時、闇《やみ》の中から自分の名を呼ぶ弱々しい声が聞こえた。
「マリユスさん!」
 彼は身を震わした。それは聞き覚えのある声で、二時間前にプリューメ街の鉄門から呼ばわった声であった。
 ただその声も、今はわずかに息の音《ね》くらいの弱さになっていた。
 マリユスはあたりを見回したが、だれの姿も見えなかった。
 彼は自分の気の迷いだと思った。周囲にわき上がった異常な現実に自分の頭から出た幻が加わったのだと思った。そして防寨《ぼうさい》の奥まった場所から出ようとして一歩運ん
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