B僕は知ってる。マブーフ老人というんだ。今日はどうしてあんなことをしたのか僕にもわからない。無能な好人物だったがな。あの頭を見たまえ。」
「頭は無能でも、心はブルツス([#ここから割り注]訳者注 シーザーを刺した人[#ここで割り注終わり])だ。」とアンジョーラは答えた。
それから彼は声をあげた。
「諸君、これは老人が青年に示した模範である。われわれが躊躇《ちゅうちょ》してる所に、彼は出てきた。われわれが後ろに隠れてるのに、彼は前に進んだ。老年に震える人が恐怖に震える者に与えた教訓である。この老人は祖国の前においては偉大なるものである。彼は長き生と赫々《かっかく》たる死とを得たのである。今やわれわれはその死屍《しかばね》を保護しようではないか。われわれは皆、生ける父をまもるがようにこの死せる老人をまもろうではないか。そして、われわれのうちに彼があることをもって、防寨《ぼうさい》を難攻不落のものたらしめようではないか!」
沈鬱《ちんうつ》な力強い賛成のささやきが、その言葉に続いて起こった。
アンジョーラは身をかがめ、老人の頭をもたげ、猛然たる様子でその額に脣《くちびる》を当てた。それ
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