ナありながら、だれも逃げることを思わなかった。
 必ずや翌日までにはすべてが決定し、勝利はいずれかの手に帰し、反乱は革命となるかあるいは暴挙に終わるかのほかはなかった。政府も一揆《いっき》も共にそれを了解し、一介の市民までもそれを感じていた。それゆえ、すべてが決せんとするその一郭の見通すべからざる暗黒のうちには、心痛の念が漂っていた。またそれゆえ、まさに覆滅が生ぜんとするこの沈黙の周囲には、いっそうの懸念が漂っていた。そしてそこに聞こゆるものは、ただ一つの響き、瀕死《ひんし》の喘《あえ》ぎに似た痛ましい響き、呪詛《じゅそ》の声に似た恐ろしい響き、すなわちサン・メーリーの警鐘の音のみだった。暗黒のうちに慟哭《どうこく》する狂乱し絶望せるその鐘の響きこそ、世に最も人を慄然《りつぜん》たらしむるものであった。
 しばしば見らるるとおり、今や自然も人間がまさになさんとすることと調子を合わしてるようだった。その痛ましい両者の調和を何者も乱すものはなかった。星は姿を隠し、重々しい雲は陰鬱《いんうつ》な層をなして空の四方をおおっていた。死のごときその一郭の街路の上には暗い空がかぶさっていて、あたかも
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