「なありさまで、大きな蜘蛛《くも》のような形の影を舗石《しきいし》の上に投じていた。それらの街路にはまったく人影がないでもなかった。叉銃《さじゅう》や、動いてる銃剣や、駐屯《ちゅうとん》している軍隊などが、そこに見えていた。しかし野次馬は一人もそれから先に出ていなかった。そこで交通がとだえていた。そこから群集が終わって、軍隊となっていた。
マリユスはもはや何らの希望も持たぬ意力をもってつき進んだ。ただ、呼ばれたので行かなければならなかったのである。彼はようやくにして、群集の中を通りぬけ、軍隊の露営地を横ぎり、巡邏《じゅんら》の目をかすめ、哨兵《しょうへい》の目を避けた。一つ回り道をして、ベティジー街にはいり、それから市場町の方へ進んでいった。ブールドンネー街の角《かど》まで行くと、もう街灯は一つもついていなかった。
群集の地帯を越した後、軍隊の境域を通りすぎたのだった。そして彼はある恐るべきものの中に陥ったような気がした。通行人もなく、兵士もなく、光もない。だれひとりいない。ただ寂寥《せきりょう》と沈黙と暗夜とのみである。言い知れぬ戦慄《せんりつ》が彼を襲った。一つの街路にはいり込
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