閨Aいっそう悲しいことがあるとすれば、それは薬屋から薬を買う金もないことである。ある晩、医者はごく高価な薬を命じた。その上、病気は重ってきて看護婦も必要だった。マブーフ氏は書棚を開いた。もう売るものは何にもなかった。最後の一冊もなくなっていた。残っているのは、ただディオゲネス[#「ディオゲネス」に傍点]・ラエルチオス[#「ラエルチオス」に傍点]だけだった。
彼は世にまたとないその一冊の書物を腕にかかえて出かけていった。一八三二年六月四日だった。サン・ジャック市門のロアイヨルの後継者の家に行き、百フラン持って帰ってきた。そして年取った召し使いの枕頭《まくらもと》のテーブルに、五フラン貨幣をつみ重ね、一言も言わないで自分の室《へや》に戻った。
翌日、夜が明けると、彼は庭の中に横たわってる標石に腰をおろしていた。額をたれ、しぼみはてた花床の上にぼんやり目を定めて、その朝中身動きもしないでいる彼の姿が、籬《まがき》越しに見られた。ときどき雨が降ったが、老人はそれに気もつかぬらしかった。午後になると、異常な響きがパリーの市中に起こった。小銃の音と群集の喊声《かんせい》とのようであった。
マ
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