ェめる時には、顔に微笑が上った。ガラス戸のついてるその書棚は必要な品を除いては彼が残して置いた唯一の家具であった。
 ある日、プリュタルク婆さんは彼に言った。
「夕御飯を買う金がありません。」
 彼女が夕御飯と言ったのは、実は一片のパンと四つか五つかの馬鈴薯《ばれいしょ》とであった。
「後払《あとばら》いにしたら?」とマブーフ氏は言った。
「だれもそんなことをしてくれないのは御承知ではありませんか。」
 マブーフ氏は書棚を開き、あたかも自分の子を一人犠牲にしなければならない父親がどれにしようかと大勢の子をながめるがように、蔵書を長い間かかって一つ一つながめ、それから急にその一冊を取り、それをわきにかかえ、そして出て行った、二時間たって彼は、小わきを空《から》にして帰ってき、テーブルの上に三十スーの金を置いて言った。
「これで夕飯をしたくしてくれ。」
 その時からプリュタルク婆さんは、老人の清澄な顔の上に暗い影がさすのを見た。その影はついに再び晴れることがなかった。
 翌日も、その翌日も、日々同じことをくり返さなければならなかった。マブーフ氏は一冊の書物を持って出かけてゆき、少しの金を手
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