轤ォたものであるとは、思いつくことができなかった。彼はその財布を所轄の警察署へ持ってゆき、請求者の意のままに拾い主から届け出でた拾得物だとして置いてきた。実際その金入れは落とされたものだった。がもちろんそれを請求する者もなかったし、さりとてマブーフ氏を救うものともならなかった。
 それにまたマブーフ氏は、相変わらず坂道を下へと下《くだ》りつつあった。
 藍《あい》の試培は、オーステルリッツの庭におけると同じく、動植物園においても成功しなかった。前年から婆さんの給金も借りになっていたが、前に言ったとおり今では家賃も数期分たまっていた。質屋は彼の特産植物誌[#「特産植物誌」に傍点]の銅版を、十三カ月預っていた後売り払ってしまった。ある鋳物師がそれで鍋《なべ》をこしらえたそうである。銅板がなくなってしまえば手もとにある特産植物誌[#「特産植物誌」に傍点]のはしたの本は完成することができないので、その木版と本文とをもはんぱ物[#「はんぱ物」に傍点]としてある古本屋に捨値《すてね》で譲ってやった。彼にはもはや一生を費やした著作物から残ってる物は何もなかった。彼はその書物の代を食い始めた。そしてそ
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