ェの中に浮かべていた、テナルディエのこと、警察のこと、壁の上に書かれた不思議な一行の文字のこと、旅行のこと、旅行券を得るのに困難なこと。
 そういうことで頭がいっぱいになってる最中に、彼は自分のすぐ後ろの土堤《どて》の頂にだれかがやってきて立ち止まったのを、日の光が投げたその影で見て取った。彼がふり向こうとした時、四つに折った一枚の紙が頭の上から落とされたように膝《ひざ》の上に落ちてきた。彼はその紙片を取り、それをひらくと、そこには鉛筆で大きく一語したためてあった。

[#天から4字下げ]引っ越せ[#「引っ越せ」に傍点]。

 ジャン・ヴァルジャンは急いで立ち上がったが、土堤の上にはもうだれもいなかった。あたりを見回すと、鼠色《ねずみいろ》のだぶだぶした上衣を着、塵《ちり》によごれた綿ビロードのズボンをつけた、子供より大きく大人《おとな》よりは小さい一人の者が、柵《さく》をおどり越え、練兵場の溝《みぞ》の中にすべり込んでゆくのが見えた。
 ジャン・ヴァルジャンは深く考え込んですぐに家へ帰った。

     二 マリユス

 マリユスはすべての望みを失ってジルノルマン氏の家から出てきた。
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