モを示した。
老人は笑い出し、年老いた目をまたたき、彼の膝《ひざ》をたたき、不思議な輝いた顔つきで彼をまともに見つめ、ごくやさしく肩をすぼめて言った。
「ばかだね、情婦にするんだ。」
マリユスは顔色を変えた。彼は今祖父が言ったことは少しも理解していなかった。ブローメ街だの、パメラだの、兵営だの、槍騎兵《そうきへい》だのという冗弁は、マリユスの前を幻灯のように通りすぎた。それらのうちには、百合《ゆり》の花のようなコゼットに関係のあるものは一つもなかった。老人は種々なことをしゃべりちらした。しかしそれらの枝葉の言葉は、マリユスが了解した一言、コゼットに対する極度の侮辱である一言に、ついに到達した。「情婦にするんだ[#「情婦にするんだ」に傍点]」というその一言は、謹厳な青年の心を刃のごとく貫いた。
彼は立ち上がり、下に落ちていた帽子を拾い、断乎《だんこ》たるしっかりした歩調で扉《とびら》の所まで行った。そこで彼はふり向き、祖父の前に低く身をかがめ、再び頭をもたげ、そして言った。
「五年前にあなたは私の父を侮辱しました。今日はまた私の妻を侮辱しました。もう何もお願いしません。お別れします
前へ
次へ
全722ページ中462ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング