B」
 ジルノルマン老人は、あきれ返り、口を開き、腕を差し出し、立ち上がろうとした。しかし彼に一言を発するすきも与えないで、扉は再び閉ざされ、マリユスの姿は消えた。
 老人はしばらく身動きもせず、雷に打たれたようになり、口をきくことも息をすることもできず、あたかも拳固《げんこ》で喉《のど》をしめつけられてるがようだった。やがて彼は肱掛《ひじか》け椅子《いす》から身をふりもぎ、九十一歳の老年に能う限りの早さで扉の所に駆け寄り、扉を開き、そして叫んだ。
「だれか、だれかいないか!」
 娘がやってき、次に召し使いどもがやってきた。彼は哀れな嗄《か》れ声で言った。
「あいつを追っかけてくれ。捕えてくれ。わしはあいつに何をしたんだろう。あれは狂人《きちがい》だ。逃げていった。ああ、神よ! ああ、神よ! こんどはもう帰ってきはすまい!」
 彼は街路が見える窓の所へ行き、うち震える老いた手でそれを開き、身体を半分以上も外に乗り出し、後ろからバスクとニコレットに引き止められながら叫んだ。
「マリユス! マリユス! マリユス! マリユス!」
 しかしマリユスにはもうその声が聞こえなかった。その時彼は既に
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