Sを刺激した。も少し早く言われたら、彼は心を和らげたであろう。しかしもう遅かった。祖父は立ち上がった。彼は両手で杖にすがり、脣《くちびる》はまっ白になり、額は筋立っていたが、その高い身体は首垂《うなだ》れてるマリユスの上にそびえた。
「お前に慈悲をかける! 九十一歳の老人に向かって若い者が慈悲を求めるというのか! お前は世間にはいっており、わしは世間から出ている。お前は芝居や舞踏会や珈琲《コーヒー》店や撞球《たまつき》場に出入りし、気がきいており、女の気に入り、男振りがいい。わしは夏の最中でも火にかじりついてる。お前は富の中での富である若さを持ってる。わしは老人の貧しさを、衰弱と孤独とを持ってる。お前は三十二枚の歯と、いい胃袋と、はっきりした目と、力と、食欲と、健康と、元気と、森のような黒い髪とを持ってる。わしはもう白髪《しらが》も持たず、歯も足の力も記憶さえも失ってる、シャルロ街とショーム街とサン・クロード街の三つの名前さえ絶えずまちがえてる、それほどになってるのだ。お前は光り輝く未来を前途に持ってる。わしはもう光が少しも見えなくなりかけてる、それほど暗闇《くらやみ》の中にふみこんで
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