ゥも知れなかったが、娘はいつも彼が出かける時には司教のような広い綿入れの絹外套《きぬがいとう》を着せてやったので、人の目につかなかったのである。家にいる時には、起き上がった時と寝る時とのほかは決して居間着をつけなかった。「あれを着ると老人らしく見える[#「あれを着ると老人らしく見える」に傍点]、」と彼は言っていた。
ジルノルマン老人はマリユスのことを考えると、かわいくなったり苦々《にがにが》しくなったりしたが、普通は苦々しさの方が強かった。そのいら立った愛情は、しまいには煮えくり返って、憤怒に終わるのが常であった。そして後には、あきらめをつけて心を痛めるものをじっと受け入れようとするほどになっていた。彼は自ら説き聞かしていた、もうマリユスが帰って来るはずはない、帰って来るものならとくに帰ってるはずである、もうあきらめなければならないと。そして、もう万事終わりだ、自分は「あの男」に再び会わないで死んでゆくのだ、という考えになれようとつとめていた。しかし彼の天性はそれに反抗した。年老いた親身《しんみ》の心はそれに同意することができなかった。それでも彼は口癖になってる悲しい言葉をくり返した
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