「》などは、凝って一つの不可解なる者となってる広大なる暗黒を相手にするのを、漠然《ばくぜん》と恐れている。道をふさぐ黒い形は、一挙に野獣の歩みをさえぎり止める。墳墓から出でたる者が、洞窟《どうくつ》から出でたる者を脅かし狼狽《ろうばい》させる。獰猛なるものは凄惨《せいさん》なるものを恐れる。狼《おおかみ》は幽鬼に出会ってあとに退く。
六 マリユスおのれが住所をコゼットに知らす
人間の顔をした番犬が鉄門をまもり、六人の盗賊らがひとりの娘の前から退却していった間、マリユスはコゼットのそばにいた。
かつてこれほど、空は星をちりばめて美しく、樹木はうち震い、草のかおりは濃まやかな時はなかった。かつてこれほど、小鳥はやさしい音を立てて木の葉の間に眠ってることはなかった。かつてこれほど、宇宙の朗らかな諧音《かいおん》は内心の愛の調べによく調子を合わしてることはなかった。かつてこれほど、マリユスは心を奪われ幸福で恍惚《こうこつ》たることはなかった。しかるに彼はコゼットが悲しい様子をしてるのを見て取った。コゼットは泣いたのだった。彼女の目は赤くなっていた。
それはこの楽しい夢の中に
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