チたが、それも互いの名を知らせ合う程度以上のものではなかった。マリユスはコゼットに語った、自分は孤児であること、マリユス・ポンメルシーという者であること、弁護士であること、本屋のために物を書いて生活してること、父は大佐であり、勇士であったこと、自分は金持ちの祖父と仲を違えたこと。彼はまた自分が男爵であることをもそれとなく語ったが、それはコゼットに何の感じをも与えなかった。男爵マリユス? 彼女は理解しなかった。それが何の意味であるかわからなかった。否マリユスはただマリユスであった。彼女の方でもまた彼に打ち明けた、自分はプティー・ピクプュスの修道院で育てられたこと、自分の方も母が亡《な》いこと、父はフォーシュルヴァン氏という名であること、父は至って親切で、貧しい人々に多くの施与をしてること、けれども彼自身は貧乏であること、そして娘の自分には少しも不自由をさせないが、彼自身はきわめて乏しい生活をしていること。
 マリユスはコゼットに会って以来一種の音楽のうちに浸ったような心地になって、不思議にも、過去のことは、最近の過去のことまでも、遠くおぼろげになってゆき、コゼットが語ったことだけで十分に
前へ 次へ
全722ページ中403ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング