も似たある物を、しだいに、日ごとに、一滴ずつ、浸み込ましていった。あの火はまったく消えてしまったのであろうか? あるいはただその上に灰がたまったのであろうか? ただ事実は、もはやほとんど痛み燃ゆる個所を彼女は感じなくなったということである。
ある日彼女は突然マリユスのことを思い出した。「まあ、私はもうあの人のことを忘れかけてるのかしら、」と彼女は言った。
その同じ週に彼女は、ひとりのごくりっぱな槍騎兵《そうきへい》の将校が、表庭の鉄門の前を通るのを見た。きゃしゃな腰つき、美しい軍服、若い娘のような頬《ほお》、腕にかかえた剣、蝋油《ろうゆ》をぬった口髭《くちひげ》、漆《うるし》ぬりの兜帽《かぶとぼう》、それにまた、金髪、大きな青い目、得意げな傲慢《ごうまん》なきれいな丸い顔つきで、マリユスとはまったく反対だった。口には葉巻きをくわえていた。バビローヌ街にある兵営の連隊に属する人であろうと、コゼットは考えた。
翌日も彼女はその将校が通るのを見た。そしてその時間を注意しておいた。
それから後は、偶然であったかどうかわからないが、ほとんど毎日彼女は彼が通るのを見た。
将校の友人らは、
前へ
次へ
全722ページ中222ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング