以上のことを語り終え、以上のことをなした後、老人は彼に背中を向け、平気で散歩を続けた。
「まぬけめ!」とモンパルナスはつぶやいた。
 そもそもこの老人は何人《なんぴと》であったか。読者は既に察知したに違いない。
 モンパルナスはそれでもやはり呆然《ぼうぜん》として、老人が闇《やみ》の中に没し去るのをながめた。そういうふうに後《あと》見送って考え込んだことは、彼のためにごくいけなかった。
 老人が遠ざかるとともに、ガヴローシュが近寄ってきたのである。
 ガヴローシュはじろりと横目で、マブーフ老人がやはりまだベンチにすわってるのを見て取った。おそらく眠っていたのであろう。それで浮浪少年は藪《やぶ》の中から出てきて、じっと立ってるモンパルナスの後ろに、影の中をはい寄った。そういうふうにして彼は、モンパルナスから見られもせず音も聞かれないで、そのそばまでやってゆき、上等な黒ラシャの上衣の後ろのポケットにそっと手を差し入れ、財布をつかみ、手を引き出し、そしてまたはいながら、蛇《へび》が逃げるように闇《やみ》の中に姿を隠してしまった。モンパルナスは自分の方を用心するなどという理由がなかった上に
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