り回ったり嬉戯《きぎ》したりまでして、帽子をぬぎ、それをジャン・ヴァルジャンの膝《ひざ》の上に置き、そして花を摘んだ。彼女は花の上にとまってる蝶《ちょう》をながめたが、それを捕えはしなかった。やさしみとあわれみとは恋とともに生まれる。うち震うもろい理想を心にいだく若い娘は、蝶の翼にも情けをかける。美人草の花輪をつくって頭にのせると、日の光が縦横にさし込んで、燃えるように真紅になり、彼女の薔薇色《ばらいろ》の清々《すがすが》しい顔に炎の冠をかぶせるのであった。
ふたりの生活が悲しみの中に沈んだ後も、彼らはなおその早朝の散歩の習慣を続けていた。
そして十月のある朝、一八三一年の秋の深い清朗さに誘われて、二人は家を出で、朝早くメーヌ市門のほとりにやって行った。まだ日の出の頃ではなくて払暁の頃で、快いしかも荒々しい時刻であった。白みがかった深い青空には五、六の星座がそこここに点在し、地はまっ黒であり、空はほの白く、草の葉にはかすかな震えがあって、至るところに黎明《れいめい》の神秘な戦慄《せんりつ》があった。星と交わるような雲雀《ひばり》が一つ、非常な高い所で歌っていて、その小さなものが無窮
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